ただ、この夜から抜け出したくて。
先生は何も言わずに、何度も頷いて僕の話を聞いてくれて、引き出しから1冊の本を出して僕に渡してくれた。
それは心のケアに関する本。
「好きだけじゃ、乗り越えられないこともあるからね。特に心に闇を抱えると。刑事さんも、そうでしょ?」
「え、どうして分かったんですか?」
僕の素性は明かしていない。
初対面なはずなのに、先生は僕の過去を言い当てた。
隠しているつもりではなかったけど、産婦人科医って透視の力があるんだろうか。
「今、透視したって思ったでしょ。違いますからね?」
「考えてたこと、全部言いますね…」
「目で分かります。目を見ると、悩みとか隠し事とかが大体分かります。それに警察の仕事は、闇を抱えてしまうことが多いですから」