ただ、この夜から抜け出したくて。
「……刑事、さん」
「ん?ごめん。うるさかったかな」
突然布団の中からくぐもった声で、ちひろちゃんが言葉を発した。
咄嗟に謝ったけど、次に聞こえた言葉で僕はショックを受ける。
「…出ていって」
「え…」
「この部屋に居ないで。早く出てって」
「篤見さん、そうした方が」
すぐに心を開いてくれるとは思っていない。
犯人は男だったし、僕も同じ男で、しかも体格も痩せ細っているわけではない。
被害者は似た人を見るだけで、怖がることもあるのは分かっている。
それでも、拒否された現実を受け入れたくなかった。
強がっているだけかも。本当は傍に居てほしいの裏返しなのかも。