ただ、この夜から抜け出したくて。
言えなかった。直前までは言えたのに、僕のせいでちひろちゃんが壊れたらどうしようって思ったら、声が出なかった。
「これからは刑事さんじゃなくて、検事さんの番なんだ。もう僕ができることはないんだけど、大丈夫だから」
「検事さん…。私のところにも来ますか?」
「ううん、もう来ないと思うよ。本当は裁判の前に、ちひろちゃんに協力してほしいって警察署に来たんだけど、やっぱり良いって言われた」
「何でですか?あの人の罪を少しでも重くできるなら、どれだけでも話します」
「本人が拒否したらしいよ。来なくて良いって」
「あの人が…そうですか」
裁判の証人になると、勇気を出してくれたちひろちゃん。
そうは言いながらも、強く握られた両手は少し震えている。