ただ、この夜から抜け出したくて。
そんな簡単に傷が癒えるとは思っていないけど、きっとあの時の記憶が蘇るんだよね。
そっと近づいて背中に手を置く。もう拒否されなくなったことに、安堵した。
そのまま背中を摩ると、鼻を啜る声が聞こえてきた。
「まだ夢に出てくるし、男の人はみんな怖い。手が近づいてくるだけで、条件反射で叫びたくなるけど、声が出なくなるんです」
「そりゃ怖いよね、そうだよね」
「それで私は汚いんだって頭から離れなくなって、トイレにこもって拭き取ろうとするんだけど汚くて、ずっと汚くて…どうしたら良いですか?あの人の罪を重くしても、私はずっと苦しい。あの人は簡単に私を忘れるのに」