ただ、この夜から抜け出したくて。
「僕は刑事さんだよ。篤見って言うんだ。君の名前を教えてくれる?」
「…あ、あの人は」
「あの人?…あぁ、悪い人はもう捕まえたよ。もうここには居ないから大丈夫」
「あっち行って、来ないで」
犯人は居ないのに、僕の話を信じてくれない。
何度大丈夫と言っても、〝大丈夫じゃない。信じない。あっち行って〟と否定の言葉ばかり。
どうにかここから助け出そうと、かける言葉を変えてみても、今にもこの世から消えてしまいそうな虚な表情で、ずっと僕を見ているだけ。
「じゃあさ、名前だけでも教えてよ」
「ちひろ…です」
「ありがとう。ちひろちゃん、外でもう1人刑事さんがいるんだけど、その人のところに行かない?保護してもらうんだ。立てる?」