ただ、この夜から抜け出したくて。
物腰柔らかく、頭をなかなか上げてくれないちひろちゃんのお母さん。
今思えば、ちひろちゃんを保護してから1度も会わなかった。
母子家庭ということもあるし、他人には言えない理由があるとは思うけど、実際に娘に会いに行かないような無関心な人には見えない。
「良かったら、お茶どうぞ」
「あ、お構いなく。…すみません、ありがとうございます」
「娘は奥の部屋に居るんですけど、帰ってきてすぐに閉じこもっちゃって」
「お話はされました?」
「いいえ。話しかけないでって言われました。大丈夫になったら言うからって」