ただ、この夜から抜け出したくて。
顔を両手で覆って、黙り込んでしまった。
何も知らずに数ヶ月、娘を探し続けたお母さんの苦しさは計り知れない。
たった1人の娘が急に居なくなるなんて、きっと想像もしなかったと思う。
「僕は初め、ちひろさんに拒否されてたんです。近づかないでくれって、突き放されました。でも、少しずつ心を開いてくれるようになって、今は僕に笑顔を向けてくれるようになりました。でも妊娠を知っていて、ちひろさんに言わなかったことで、また拒否されてしまいました。結局何もできてなくて、惨めな思いばっかりです」
「篤見さんには…言うのね」
「でも綺麗事はいらないって言われて、目が覚めました。ちひろさんは、僕に本音をちゃんとぶつけてくれていたのに、僕はいつも綺麗事に振り回されてる。今度こそ、本音をぶつけに来たんですけど…」
「娘も綺麗事言ってますよ。病院に運ばれた時、先生が私を呼ぼうとして下さったみたいなんですけど、娘が私を呼ぶなって先生に言ったみたいなんです。心配かけたくないからと…。娘のわがままの方が、よっぽど綺麗事です」