ただ、この夜から抜け出したくて。
僕が恐れているのは、ちひろちゃんが妊娠している子を、中絶するのではないかということ。
好きだと思う人との間にできた子ではなくても、自分の子に変わりはない。
そこを分かった上で、中絶という考えを早まらせたくない。
少なからず、相手の血は受け継ぐかもしれない。
でも例外を除いて、生まれようとする命を人の手で断つ以上に、残酷な事はない。
「やっぱり、ちひろさんとお話ししても良いですか?」
「もちろん、上がって」
聞いてもらえないのは分かっているけど、きっと聞こえている。
僕の気持ちとちひろちゃんの思いは、十分理解していると伝えたい。