アキアカネとあおいそら
「ーーあれ?葵やん」
そんな時だ。もう天の家まで目の前というところで、前から誰かに声をかけられる。
「やっぱそうやんな。背丈から確信はしててんけど、隣に女の子連れとるから、違ったら気まずいなー思ってん。けど、当たりやったな」
歩き方からゆったりとして、大人の余裕を感じさせる相手。目の前までくると街灯と月明かりでその姿がよく見える。
天が見上げるほどの身長で、整った顔立ちをしていた。そんな相手に天は目を合わせる事などできず、先程の会話から知り合いなのだろう葵に視線を移す。
「……兄貴、なんで、ここに……」
そこには、見たこともないくらい強張る葵の顔があった。
「大学の試験終わったし、せっかくやし家族の顔見にこよう思って。一番に葵に会えるとは思わんかったわ。で、そちらの子は彼女?」
「ち……」
「ちゃうわ。友達の赤音さんや。赤音さん、こっちは……俺の兄貴」
思わず天が否定しようとする前に葵が彼女ではないと答える。本当のことなのに、天の胸が少しチクリとした。
「ほーん、お友達……ねぇ」
葵の兄は2人の様子をジロジロと見て、ニコッと笑みを浮かべ天に挨拶をする。
「いつも葵がお世話になっとります。兄の静いいます。よろしゅうね。赤音さん」
「あ、はい。私の方こそ安岐くんにはたくさんお世話になっていまして……」
「なんや安岐くんて呼んどるんか。ほんなら俺のことは静って名前でーー」
「帰るで兄貴。赤音さん、ほなまた」
静の言葉を遮り葵は淡々と天に別れを告げる。そのまま兄を引っ張り歩き出していった。
いきなりすぎた出会いに天は驚きと同時に僅かな違和感を覚える。静と会ってから葵はずっと関西弁を喋っていた。家族である兄の前なのだからそうなのだろう。しかし、その言い方に棘があるように感じたのは気のせいだろうか。
「安岐くん……」
天はいつもと違う顔を見せた葵を気に留めて、彼が去っていった方をしばらく見つめていた。