ミルクティーの音色


3


ノックを二回。
返事が返ってきたら、中に入る。
これが放課後のいつものルーティーンだ。


しかし、今日は返事が返ってこない。
強めにドアを叩いてみても、少しも声が聞こえない。


音楽室のドアにはのぞき見防止用の黒いカーテンがつけられていて、気分で開閉することができる。
それが閉まりきっているから、中の様子を伺うことすらできない。


なんとか隙間から音楽室を覗くと、黒いピアノに突っ伏している渋谷先生がいた。
ドアを急いで開け、渋谷先生に駆け寄る。


「渋谷先生、渋谷先生!大丈夫ですか」


肩を揺すっても、渋谷先生からの反応はない。
首元に手を当て、脈を確かめる。
とく、とく、と、鼓動を感じた。
呼吸もしっかりあるみたいだ。
なんだ、ただ寝ていただけか。


声をかけながら身体を軽く揺すると、やがて渋谷先生がう、と声を上げた。
目をぎゅっとつぶって、なにかに耐えるような表情をしている。
呻き声に似た声が途切れることはなく、未だ渋谷先生は目覚めない。


「……って、いやだ」

「渋谷先生?」
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