ミルクティーの音色
渋谷先生の息が荒くなっていく。
もしかして、悪夢かなにかにうなされているのだろうか。


「佐々木、さん」


絞り出されるようにして出された声。
渋谷先生がうなされながら見ていた夢は、私が出てくるものだったようだ。


───先生がうなされていたのは、私のせい?


今日の朝見た夢には、渋谷先生が出てきた。
私に、やさしく笑ってくれた。抱きしめてくれた。
幸せな、夢だった。


そんな幸せな夢は、すぐに打ち砕かれた。


夢の中で、渋谷先生は私を捨てていった。
捨てたというより、この関係を一方的に終わらせたという方が正しいだろうか。


渋谷先生は一方的に別れを切り出し、私の前から去って行った。
途中から、夢だと分かっていた。
いつもは輝きに満ちている渋谷先生の瞳に、全く光が灯っていなかったから。


夢だと分かっても、こんなことにはならないと分かっても、身体の体温が下がっていく感覚がした。
足元から冷たい氷に覆われて、動けなくなってしまうような。
徐々に徐々に、じんわりと、視界が曇っていくような。
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