ミルクティーの音色
渋谷先生に向けていた視線をそらして、手のひらを空に伸ばした。
海のようにどこまでも続く水色は、私の手のひらを簡単に呑み込んでいく。


ちらりと隣を見れば、渋谷先生も同じことをしていた。
私と比べると大きい手。
その手がくれる温度はあたたかく、安心できるものだと私は知っている。


空を見上げ続けた影響か、くらっときた。
倒れそうになったところを渋谷先生に支えられる。


『大丈夫?』

『もうちょっと、このまま』


夢の中で失ってしまった渋谷先生の温もりを、存分に感じたかった。
嫌というほどに、苦しくなるほどに、感じていたかった。


そんな私の態度に、渋谷先生は少し驚いていた。
ふたりきりの放課後でも、私が自分から甘えることは少ない。
温度を確かめるように頬に触れていたから、風邪を引いているのかと疑いもしていたようだ。


『そろそろ戻る?』


───もう少し、一緒にいたいです。


そう言っても、迷惑をかけてしまうことは分かっている。
恋愛は人を欲張りにさせる。
たった一時間で良かったのに、今は、ずっと一緒にいたい。
< 104 / 214 >

この作品をシェア

pagetop