ミルクティーの音色
もう一度ハンドルを切り、車が駐車場に入っていく。
ちらりと佐々木さんの横顔を見ると、四角い窓から入ってくる風に瞳を伏せていた。


車を停め、降りる。
二週間前にここに来たときとは違い、佐々木さんはなんのためらいもなくドアを開けた。


夕方特有の爽やかな風に身を任せる佐々木さんは、空を舞う鳥のようだった。
美しい羽をめいっぱい伸ばして、風を切って飛んでゆく、鳥みたい。


マンションの中に入り、パネルにカードキーを押し付けた。
オートロックが解除されて、目の前のドアが開く。


階段を上って部屋がある三階まで向かう。
また屋上に行くか佐々木さんに聞いたけれど、今日は行かなくていいらしい。


「もう朝、学校の屋上行きましたし。それに……いいんです、今は」


一瞬なにかを口ごもったような気がしたが、それもすぐに言葉に遮られた。
佐々木さんが何を言おうとしたのか、少しだけ分かる気がする。


今日の放課後。
悪夢にうなされ、泣きそうになっていた俺の前で、自分も悪い夢を見たと佐々木さんは吐露した。
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