ミルクティーの音色
「どういうこと?痛いのには変わりないでしょ」

「そうなんだけど。なんていうか、傷ついたわけじゃないから。しあわせな痛みだよ」


そっか、と蒼真くんは笑った。
腰だって喉だって、痛いことに変わりは無い。
少しでも動けば痛むから動きたくはないけれど、その痛みすら愛せそうな気がする。


だって、私は傷ついてなんかいないから。
自分では触れられないような場所にしるしをつけられたような、そんな感覚があった。
けれどその感覚は全く不快なものではなくて、いつまでも大事に残しておきたい大切な思い出のような、そんな感覚だった。


ふと、空を見上げた。
空は嫌いだ。なのに、時々どうしようもなく空を見上げたくなる。


今日の空は、少し曇った表情をしていた。
所々に分厚い雲が出来て、あたたかい光を遮っている。


「曇ってる。今日の空」

「そうだね。曇りってあんまり好きじゃないな、俺」


同じように空を見ていた蒼真くんが、なにかを思い出したような顔をして私を見た。


「そう言えばさ」

「うん?」
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