ミルクティーの音色
「この前、空は嫌いだって言ってたよね。なんで?」


返答に詰まった。
大した理由じゃないのだ。
他人から見たら笑われてしまうようなほど、馬鹿げている理由だ。


「大した理由じゃないから」

「別にいいよ。なにかを嫌いな理由って、大体ちょっとした理由じゃない?」


───教えてよ。


私を見つめてくる焦げ茶色の瞳が、そう語りかけている気がした。


渋谷先生は気づいているのかもしれない。
その瞳に見つめられると、私が何も出来なくなってしまうことに。


「本当、大した理由じゃないの。中学の頃は、空が好きで。今みたいに、屋上から見上げたりもしてた」


見上げれば、すぐそこにあって、自分の身体を包み込んでくれる空が好きだった。
生暖かい羊水のように私を包み込んで、安心感でいっぱいにしてくれる。
そんな空が好きだった。


屋上から眺める空は、格別に美しいと思っていた。
見上げる空と、見下ろす空。
空と空の間に挟まれたような感覚がした。
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