ミルクティーの音色
一度きりの夏

第三章 一度きりの夏


1


コンコン、ともう聞き慣れたノックが二回。
俺もいつも通り返事をすれば、香音が音楽室に入ってくる。


「はー、涼しい。廊下暑すぎる」

「もうすぐ夏休みだもんね」


その言葉を口にして、急に実感が湧いてきた。
もう夏休みか。毎年なにしてたっけ。実家に帰ったり、家でごろごろしたり。
今年は───。


「先生、夏休みのご予定は?」


ふたりきりの時は先生呼びじゃなくて良いと言ったのに、学校だと香音は俺のことを「先生」と呼ぶ。


『だってもし、蒼真くんって呼んでるのが聞かれたらやだもん。だから蒼真くんも、香音とは呼ばないで』


そう言われてしまったものの、俺は毎日口を滑らせそうになっている。
今日だって授業中に「香音」と呼ぼうとして慌てて踏みとどまったし。


「夏休みか、予定はなんもないな。そっちは?」

「私もなにもないです。どうです、ご一緒するってのは」


遠回りに一緒にいたいと言われているのだと分かった。
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