ミルクティーの音色
「そうだ先生、浴衣とか着ますか?」

「浴衣……家にあったかな」

「レンタルすればいいんですよ、今の子たちみんなそうです。知らないんですか?」


また馬鹿にされた。
さっきから馬鹿にされてばっかりだ。


「かの……佐々木さんは着るの?」

「また名前で呼ぼうとした。ひやっとするからやめて。浴衣ね……着ようかな」


香音が浴衣を着ているところを想像しただけで、沸き立ちそうになるのを感じた。
好きな人の浴衣姿なんて、興奮しない男がどこにいるというのか。


「……いいんじゃない、浴衣」

「今やらしーこと考えたでしょ?」

「考えてない」


今度は俺がひやっとした。
そういう方面の話がまさか香音から出るとは。


携帯をしまい、ピアノの方に移動する。
黒くてふかふかとした椅子に腰を下ろせば、香音も隣に並んだ。


同時に鍵盤に手を下ろし、旋律を奏でていく。
メロディーは俺。その合間合間に、香音が高い音をアクセントのように鳴らす。
< 140 / 214 >

この作品をシェア

pagetop