ミルクティーの音色
ピアノを真剣にやっている人からしたら、連弾まがいだと言われるかもしれない。
それでもいい。拙くたって、間違えたっていい。
ふたりでピアノを弾くことに、意味がある。


時々見つめ合いながら、肩でお互いをつつきながら、俺たちはめまぐるしく手を動かす。
空いている場所を見つけては鍵盤を沈め、音を鳴らす。
やがて俺が弾く主旋律が終わりへと向かい、同時に鍵盤を沈めてフィナーレとなった。


「上達したね、だいぶ。数週間しかやってないのに」

「先生が教えるのうまいから。でもまだまだだよ」


そう言えば、なんでもいいから一曲弾けるようになりたいと香音が言っていたのを思い出した。
何か楽譜でも取ってこようかと思い、立ち上がろうとすると腕を掴まれた。
そのまま黒椅子に座らされ、強引に鍵盤に手を置かされる。


「なに、楽譜でも取ってこようと思ったんだけど」

「いい、ふたりで弾きたい」


香音にとっての優先順位は一曲弾けるようになることより、俺と一緒に弾くことらしい。
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