ミルクティーの音色
誰に見られているのだろう。どこから見られているのだろう。
きょろきょろと周りを見回しても、誰も見当たらない。


「渋谷先生」


遠くのドアの方から名前を呼ばれた。
誰だろうと思って視線を動かすと、資料が入ったファイルを抱いている町田先生がいた。


「町田先生、どうしたんですか」


思わず黒椅子から立ち上がる。
町田先生が小走りでこちらに駆け寄ってきた。


「隣に入ろうと思ったら、素敵な演奏が聞こえたので。さっき、誰かと連弾してたんですか?連弾の音が聞こえたので」


この学校には音楽室がふたつあり、ひとつは俺がメインで、もうひとつの方は町田先生がメインで利用している。
きっと明日の授業の準備でもしようと、隣の音楽室に入ろうとしたんだろう。


それにしても、流石は音楽教師。
些細な音だけで、連弾かどうか把握したようだ。


「まぁ、はい。もう帰っちゃいましたけど」

「いいな、わたしも久しぶりに連弾したいです。どうですか?」
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