ミルクティーの音色
誘い文句は大体同じのようだ。
この間一緒に飲んだときもそんなことを言っていた。


「いいですよ。なににしますか」

「うーん……これ弾けますか?」


持っていたファイルを机の上に放り投げ、黒椅子に腰掛ける。
瞳を輝かせながら旋律を奏で始めた。


この曲なら俺も分かる。
アップテンポかつ、音数も多い、難曲と言われるような曲だ。


これを弾いてくるとは、流石。
楽しそうに弾く町田先生に乗ることを決め、鍵盤に指を置く。
猫が飛び跳ねるように、軽やかに。そんなことを言われた曲だ。


最後の音を弾き終え、ゆっくりと鍵盤から手を離す。
その瞬間、忘れ去っていた熱気がぶわっと押し寄せた。


町田先生の方を見ると、おでこの辺りにじんわりと汗をかいていた。
俺も額に汗が浮いていて、それをぐっと手の甲で拭った。


「あー、楽しい。久しぶりです、こんな楽しく弾いたの」

「流石ですね町田先生、お上手で」

「渋谷先生もお上手ですよ。でも、なんだか心ここにあらずって感じでしたね」
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