ミルクティーの音色


2


「先生」

「なに、また来たの?」

「来ていいって言ったの先生ですよね」


後ろ手でドアを閉め、私はピアノ近くの机に荷物を置いた。


「来るのはいいけど、構ってあげられないんだって」

「それでいいって言ってるじゃないですか」


放課後の一時間、私は毎日この音楽室に入り浸っている。




きっかけは一週間前。
いつも通りひとりで帰ろうとしていると、どこからかピアノの音が聞こえてきた。


軽やかなメロディー。それがガラッと変わって、しっとりとした質感になっていく。
気づけば私は、音楽室に向かって歩き出していた。


音楽は不思議だ。
いやまぁ、正確に言えば、あの人が紡ぐ音楽が。
私の身体を、こんなにも力強く動かしている。


ピアノの音がする音楽室を覗き込むと、ひとりピアノに向き合っている渋谷先生がいた。

ドアが開いているから音がはっきり聞こえるし、渋谷先生の笑顔もよく見える。
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