ミルクティーの音色
その一言に、私は驚かなかった。
喪失感も悲しみも、なにもない。
大きな感情の波が押し寄せることもなく、その波はどこか遠くで静かに凪いでいる。


「……そっか」

「そっか、って」


蒼真くんが言葉を切り、うつむく。
言いたいのに言えないことを、隠しているような顔をしている。
やがて意を決したように顔を上げ、口を開いた。


「なんでもっと、怒ったりしないの。俺のせいとか、攻めればいいじゃん。もうこの関係終わりにしようとか、言わないの」


私はなにも言えない。
『ごめん』なんて、全く気持ちのこもっていない謝罪をこぼした程度だ。


分からないのだ。
こういうとき、なにを言うのが正解なのか。


「……なんて言ったら良いの、こういうとき。だって、もうバレたんでしょ?ならもう、仕方ないじゃん」

「強いんだね、香音は」

「強くないよ」


強くなんかない。現に今発した声だって、震えている。
弱いから、いらない感情を排除して、自分で自分を鈍くしているだけ。
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