ミルクティーの音色
ゆっくりと時間をかけてメイクをしたからか、時計を見ると十二時近かった。
浴衣を着る前に昼ご飯を食べようと一階に下りれば、母親がバタバタと支度をしていた。


「あぁ香音、起きてたの」

「まぁ、約束あるし」

「そう、あたし行くからね。今日は帰ってこないから」

「私もそのつもりなんだけど」

「知ってる、彼氏のとこでしょ?楽しんできなさい、遥は友達のとこ泊まるって言ってたから」


彼氏が出来た、なんて報告はしていないのに、最近の私の態度で感じ取ったらしい。
じゃあねと手をひらひらさせながらドアの向こうに消えていく。


よかった、金を無心されることはなかった。
もう金を渡さないと宣言したあの日から、母親に金をせびられることはなかった。
ほっとしている裏腹、いつそれが崩れるのだろうと不安でしかない。


築き上げた安心は、一瞬にして消え去っていくことを私は知っている。


大してお腹もすいていなかったので菓子パンをいくつか食べ、部屋に戻った。
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