ミルクティーの音色
曲が盛り上がってくると同時に、私の身体もメロディーの中に巻き込まれていって、旋律の中の音になっているような気がする。


曲を弾き終えると、冷たい波がさーっと満ちていくような感覚がしてくる。
ピアノの演奏によって得ていた高揚感を逃したくなくて、私はまた旋律を奏で始めた。


鍵盤をひとつ押す度に、指を動かす度に、鼓動が高鳴る。
ピアノを弾くことが、楽しくて仕方ない。


いつか、蒼真くんも言っていた。


『弾き終わったときが、一番虚しいよね。ぜんぶがさらわれて、急激に冷えていく感じ。嫌なことを、思い出させられるって言うか』


弾き終わったときが、一番虚しい。
楽しかったことが終わってしまって、昂ぶっていた感情が、高鳴っていた鼓動が、ゆっくりと沈んでゆく。


ピアノを弾いているときは忘れ去っていたことが、一瞬にして脳裏に浮かぶ。
折角忘れていたのに。なにも考えず、ピアノを奏でていたのに。
< 162 / 214 >

この作品をシェア

pagetop