ミルクティーの音色
「……先生、毎日ここでピアノ弾いてるんですか」

「まぁ、会議とかなければね」

「聴きに来ても、いいですか」


私の突拍子もない発言に驚いたのか、先生の指がピアノの鍵盤に乗る。
まだ一つの音でしかない低音が、ずしりと響く。


「そんな、聴かせられるレベルじゃないよ。ただ好きなだけだし」

「いいんです」


私は強く頷くと、先生を見つめた。
もし断られたらなんて、微塵も浮かばなかった。
渋谷先生は了承してくれる。そう、なんの疑いもなく思った。


───だって、『生きる意味』に、なってくれるんでしょう?


「……わかった、いいよ。あ、でも、佐々木さん部活は?」

「私無所属なので、そこは大丈夫です。親も私に無関心なので」

「なら良かった。常に鍵は開いてるから、放課後になったら来ていいよ。俺が来れないときは事前に伝える」

「了解です。もう毎日来ますよ?」

「俺は別にいいけど、無理しないで。佐々木さんの時間を奪う気はないから」
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