ミルクティーの音色
「で、今日はなにするわけ?」
ぼんやりここに来た日のことを思い出していたら、ピアノにもたれている渋谷先生が聞いてきた。
なにをするわけでもなく、ピアノを弾く渋谷先生を見つめるだけの時もある。
勉強に取り組むときもあれば、小説を読むときもある。
『ピアノなんか聴きながらやって集中できんの?』と渋谷先生は言うけれど、私にとって彼が弾くピアノはどの音楽よりも安心できる。
今日はなにもする気になれなくて、机に頬杖をついて渋谷先生を見つめた。
「なにもしない気?じゃあ俺もそうする」
「え、なんでですか。ピアノ弾いてくださいよ」
「佐々木さんのお陰で毎日弾いてるから疲れてんの」
不本意だ。
確かに毎日ピアノを弾いて欲しいとせがんでいるけれど、渋谷先生だって満更でもない表情で弾き始めるくせに。
渋谷先生はピアノから離れ、私がいる机に椅子を寄せた。
その椅子に座り、真正面から見つめられる。