ミルクティーの音色
「昔?」

「うん。って言っても、半年前くらいのことだけど」


彼が歩き出し、フェンスにもたれる。
私もその隣で、彼と同じような体勢を取った。


風が吹いて、私と彼の髪を揺らしていく。


───飛べそう。


フェンスに手をかけ、力を入れて足を浮かせてみる。
彼はなにも言わない。動かない。


私は浮かせていた足を地面に戻した。
ちらりと彼が私を見る。


「止めないんだ。今、飛ぼうとしたのに」

「でも、飛ばないでしょ?香音は」


すべてを見透かされたような気がして腹が立つ。
口をとがらせていると、彼が私の顔を見て笑った。


「香音」

「なに?」

「ひとつ聞きたいことあるんだけど」


彼は真っ正面から私を見つめると、少し不安げな表情で言った。


「今も、死にたいって思う?」


その質問に、長い間足繁く通った音楽室を思い出した。
生徒が何度も何度も踏みしめたからか、擦り切れて色が薄くなった床。
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