ミルクティーの音色
速すぎる時の流れに驚いてしまう。


蒼真くんが歩き出し、フェンスにもたれる。
私もその隣で、彼と同じような体勢を取った。


風が吹いて、私と蒼真くんの髪を揺らしていく。


───飛べそう。


フェンスに手をかけ、力を入れて足を浮かせてみる。
蒼真くんはなにも言わない。動かない。


私は浮かせていた足を地面に戻した。
ちらりと蒼真くんが私を見る。


「止めないんだ。今、飛ぼうとしたのに」

「でも、飛ばないでしょ?香音は」


すべてを見透かされたような気がして腹が立つ。
口をとがらせていると、蒼真くんが私の顔を見て笑った。


「香音」

「なに?」

「ひとつ聞きたいことあるんだけど」


蒼真くんは真っ正面から私を見つめると、少し不安げな表情で言った。


「今も、死にたいって思う?」


その質問に、いつかの風景を思い出した。
ふたりきりの音楽室で、今と全く同じことを聞かれた、あの日を。
< 209 / 214 >

この作品をシェア

pagetop