ミルクティーの音色
でも私は違った。
父親は家を出て行き、母親は私よりも私の妹を優先した。


理由は単純。
妹の方が可愛くて、愛嬌があって、成績も良かった。
それと比べて、私は。


歪んだ価値観を持って、成績も全くいいとは言えなくて。
愛されないのも当然だろう。


「先生」


手を絡ませたまま言った。
渋谷先生の息が耳にかかって、じんわりと体温が上がっていく。


「なに」
「もう共犯ですね」


私が飛ぼうとしたときのあの日。
あのハグはきっと、事故みたいなものだ。


今回は違う。お互いの、意思でやったことだ。
自分の意思で、私は渋谷先生を受け入れた。
それはいいことなのか、悪いことなのか。


私も渋谷先生も、今は判断できそうにない。


「共犯?まぁそうかもね」
「どうします、バレたら」
「別にいいよ、俺は。佐々木さんの人生は潰れるかもだけど」


人生なんて、潰れたって構わない。
意味や希望なんて見いだしていない。
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