ミルクティーの音色
「先生とだと時間があっという間です」
「俺も」


机に置いていたリュックを背負った。
音楽室を出ようとして、後ろからの視線に気づく。振り返る。


「またね、佐々木さん」


渋谷先生がひらひらと手を振っていた。
表情は少しだけ名残惜しそうだ。


「また明日、です」


熱のこもった視線を向けられるのは恥ずかしくて、逃げるように昇降口へと向かった。
また明日です、ってなんだ。
まともな日本語も喋れなくなってしまった。


外に出ると、もう日が落ちてしまいそうだった。
冷たい風が頬に触れ、火照った肌を少しだけ冷ました。







家に帰ると、珍しく母親の靴があった。
こんな時間に家に帰ってくるなんて。
大体母親がここに帰ってくるのは深夜だ。


ただいまと小さく呟き、リビングに続くドアを開ける。
母親はダイニングテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。


派手なメイク。新しい男の趣味だろうか。
< 31 / 214 >

この作品をシェア

pagetop