ミルクティーの音色
でも、もし。
佐々木さんが、この世界から飛んでいきたいと思っているのだとしたら。
すべて振り払って、もう解放されたいと思っているのなら。


俺はどうするだろうか。
飛ぼうとした手を掴む?
佐々木さんの背中を押す?


どっちもしたくない。
きっとそんなことにはならない。させない。


もうすっかり資料を作るなんてやる気は失せて、俺はパソコンを閉じた。
他の先生方に声をかけて、職員室を出る。


外に出ると、もう日は暮れていた。
幾つもの星が浮かぶ夜空の下、俺はひとりで歩いている。


今日も佐々木さんは音楽室に来てくれた。
ここのところ毎日来てくれている。


今日はお互い何もせず、ただ会話を交わすだけ。


『思ってることぶちまけて、弱音ばっか吐いても、受け入れてくれるんですか』


瞳を潤ませながら、そう言った佐々木さんの姿を思い出す。
儚い。そう思った。


ふわふわとして、輪郭を保っていないような、そんな気がして。
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