ミルクティーの音色
動揺によって動かなくなってしまった頭は思考を遅らせる。
何の改善策も浮かばなくなり、私は諦めて校舎へと歩き出した。


大丈夫。渋谷先生ならきっと何とかしてくれる。
大丈夫、大丈夫。何度もそう言い聞かせ、校舎に入ろうと昇降口のドアに手をかけた。


しかし、どれだけ力を込めてもドアが開くことはなかった。
当たり前だ。もうとっくに下校時刻は過ぎていて、生徒は帰っているはず。
職員玄関から入るべきだったのか、とため息をついた。


「佐々木さん?」


真水のように透き通っていて、でも甘くて。
そんな声が、私を貫いた。


振り向いた先には、渋谷先生がいた。


「……先生」
「どうしたの、佐々木さん。忘れ物?」


私を気遣ってか、渋谷先生が近くに来てくれる。
言いたいことは山ほどある。
助けてください。家に入れなくて、金もなくて。


山ほどあるのに、なに一つとして口から出てこない。
< 51 / 214 >

この作品をシェア

pagetop