ミルクティーの音色
私は渋谷先生に世話になる身だ。


「先生、お家何階にあるんですか?」
「三階」


壁に取り付けられているパネルを見ると、もう五階まで上ってきていることが分かった。
というか先生、家通り過ぎてますけど。


「先生どこ向かってるんですか?三階過ぎてますし、私の足が悲鳴を上げ始めてるんですけど」
「まぁまぁ。もう足痛いの、体力なさ過ぎ」


渋谷先生に宥められながら向かった先は、マンションの屋上だった。
太陽が深い闇に、少しずつ沈んでいく様子がよく見える。


「どう?わりと綺麗でしょ。佐々木さんに見て欲しくて」


私はフェンスにもたれながら、美しい景観を黙って見ていた。
横で同じ景色を見ている渋谷先生の瞳に、うっすらとオレンジ色の光が映っている。


───先生の方が綺麗です。


浮かんできた想いは、心の中に閉じ込めた。
いつからか、心の中に灯された、ひとつの感情があった。
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