ミルクティーの音色
それはあたたかくて、やさしくて、私にとっては知らないものだった。
一生知らないままだと思っていたし、知れないものだろうと思っていた。


その感情の名は、恋という。


渋谷先生は、いとも簡単に私の心に火を灯した。
恋という名の火を。


火をつけたのであれば、つけた人なりの責任を取って欲しい。
私たちの関係が終わりになった時には、しっかりと火を消していって欲しい。


火がついたまま、消されたと錯覚してしまったら、その火に気づかずに、じわじわとやけどを負っていってしまうだろう。


火が消えずにい続けることは、多分ない。


どれだけ長い蝋燭を用意したって、それもいつか尽きる。
風にさらわれてしまえば、すぐに終わり。


今のうちなら、引き返せるよ。
そんな囁きが、心の中から聞こえてくる。
分かっている。
私の中にある、恋という名の炎は、まだまだ消えそうにないのだ。


その炎は心を少しずつ焦がしていて、今なら火を消せば治る程度の傷で。
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