ミルクティーの音色
自分からこの火を消せば、傷つかなくて済むのかもしれない。


「佐々木さん?」


柔らかいガーゼみたいな声が、私の心を手当てする。
ああ、きっと大丈夫だ。


どれだけ傷ついても、苦しくても、この人がいるのなら。
心に負った、数え切れないほどの傷だって、この人が癒してくれる。


「渋谷先生」

「なに?」

「一緒にいてくれますか、ずっと」


突然放った一言。
渋谷先生の顔に驚きの色が広がる。
それも一瞬で、すぐにやさしい微笑みに変わった。


「うん。佐々木さんが、一緒にいたいって思ってくれるなら」


渋谷先生の瞳に、オレンジ色の光が見える。
どこまで一緒にいられるかは分からない。
『ずっと』なんて言ったけれど、この世にずっとはない。永遠はない。
数年後、数ヶ月後、数週間後、数日後、数秒後。


いつ途切れるか分からない、私にとっての幸せ。
儚くて、でもあたたかい、やさしい日々。
< 59 / 214 >

この作品をシェア

pagetop