ミルクティーの音色
「あ、えっと……」

「佐々木さん、だっけ。よく授業サボってるって聞くけど」


私が手をかけていたフェンスにもたれて、渋谷先生は私を見つめる。
焦げたような茶色をした瞳に、吸い込まれてしまいそうになった。


「なに、授業つまんない?それとも、別の理由?」


馬鹿正直に言う必要はない。
『まぁ、そんなところです』とでも言って誤魔化しておけば良い。


「人生なんて意味がないって、思いません?そんな世界で生きてても、仕方ないなぁって思ったんです」


───そう言ってしまったのは、先生のせい。


渋谷先生は口元を緩めると、私に向けていた視線を空に移した。
先生の顔をまじまじと見たのは初めてだけど、よく見ると意外に整っている。


「高校二年生が随分と重いこと考えるんだね」

「そうですかね」


私ももう一度空を見てみる。
やっぱり、飛べそうな気がした。


フェンスを乗り越えようかと、足を浮かせる。
< 6 / 214 >

この作品をシェア

pagetop