ミルクティーの音色
そのお陰で母親は大して仕事もせず、男の家に入り浸ってばかりなのだけれど。


「ねぇ、香音」


いきなり変わった声のトーン。
もしや、と思う。


「何、また金?先週渡したじゃん」

「違う違う、それはもう大丈夫だから。ほんとありがとう」


『大丈夫』その一言を、信じてしまいそうになる自分がいる。
毎回そうだ。今回は大丈夫。きっと上手くいくから。
そんなのすべて嘘だ。絵空事だ。


でも、もしかしたら大丈夫なのではないかと。
自分は子供に金をせびっている歪な親なのだと、気づいてくれるのではないかと。


淡い期待を抱いて、母親の言う戯れ言(ざれごと)に、引っかかってしまいそうになる。


「あのね、今いい感じになってる人がいて。娘ふたりと三人で住んでるのって言ったら、一緒に住みたいって言われて」


母親は顔の前で祈るように指を組んだ。
立っている私を、上目遣いで見上げてくる。


「どう、香音。四人で住まない?」
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