ミルクティーの音色
行きたかった志望校に通えて、きっと笑顔が溢れる家庭になって。
それはそれで幸せだと思う。
自分が思い描いていた、夢を掴んでいるんだから。


その一方で、思う。
今と違う高校に通っていたのなら、渋谷先生と会うことはなかった。
渋谷先生と会わなくても、私は生きていられたかもしれない。


大して人生に希望を抱かず、夢も見ず、波に乗って進んでいく浮き輪のように、生きていたかもしれない。
あの日渋谷先生と出会って、私は変わった。


毎日が、楽しくなった。
なくてはいけないものなんて、この世にはない。
正確には水とか酸素とかがそれに含まれるのかもしれないけど、いなきゃいけない人間はいない。


誰であれ何であれ、代替は効く。


この理不尽な世界で、私は代替の効かない人と出会ってしまった。
誰とも換えられない、かけがえのない存在。


ひとりで耐えた辛い夜も、怒りが沸いている今も。
今まで経験したすべての酷な経験が、渋谷先生と出会うためにあったのだとしたら。
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