ミルクティーの音色
たったひとりに出会うために、私は十七年もかかったみたいだ。
遠回り過ぎるだろう。
そのすべての遠回りは、私にとって必要なものだった。


「いいよ、四人で暮らそう。その代わり、ひとつ条件がある」

「条件?」


もう、母親に見上げられたくない。
もう、母親を見下ろしたくない。


私は親のために金を稼いでいるわけではない。
紛れもなく、自分のためにやっていることだ。
私が私の力で、生きていけるように。


「もう、お母さんにお金は渡さないから」


無意味な宣言かもしれない。
数日後にまた、母親に金をねだられるかもしれない。
母親が変わってくれるだろうとも思っていない。


それでも、この暗闇から、私は抜け出したい。


私は今、一筋の光を掴んでいるのだ。
渋谷先生という名の光を。


折角それを掴むことが出来たのだから、何をしてでも離したくない。
光を掴んでいる手に縋ろうとしてくるものを、すべて振り払ってしまいたい。
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