ミルクティーの音色
町田先生は俺の腕を振り払うと、ひとりで駅に向かって歩き出した。
時折人にぶつかりながら、転びそうになりながら、ひとりで歩いている。


気づくと俺は町田先生の隣に並び、その華奢な腕を掴んでいた。


「渋谷先生?」

「やっぱり心配です、送りますよ」

「でも、お家あっちなんじゃ」

「いいですよ、先生の方が心配です」


町田先生と腕を絡ませながら、いけないことをしている自覚はあった。
俺には佐々木さんがいて、お互いを想っているはずなのに、俺は佐々木さんの気持ちを踏みにじるような行為をしている。


今すぐに腕を振りほどくべきだと、身体を離すべきだと分かっているのに、酒で濁った頭は上手く機能しない。
大丈夫だ、きっと。


佐々木さんはこんな所まで来やしないし、見られることなんてないだろう。
明日になればすっかり忘れているだろう。
酒は手っ取り早く記憶も飛ばせる。


そうだ、きっと大丈夫。
全く働いていない頭が出した結論は笑えるほど馬鹿馬鹿しいものだった。
< 89 / 214 >

この作品をシェア

pagetop