ミルクティーの音色
「佐々木さん、何かあった?」

「え?」


俺より先に階段を下りていた佐々木さんが振り向く。
瞳に、昨日はなかった薄暗い光が揺らめいている気がした。


「何かあったなら、話聞くよ。だって俺、彼氏だし」


自分でも言ったあと恥ずかしくなった。
まともに恋愛をしてこなかったお陰で、甘い台詞を吐いたり甘い行動をしたりするのに慣れていない。


「じゃあ、放課後に。音楽室で」


佐々木さんはそう言うと、小走りで教室へと向かっていってしまった。
俺がなにかしてしまっただろうか。
そんな記憶はないのだけれど。


もしや、町田先生とのことを見られたとか。
だとしたら、少し雰囲気が違うのも想像がつく。


いや、きっとそうじゃない。
大丈夫。大丈夫。
自分にそう言い聞かせながら、俺は職員室へと向かった。


手のひらにかいた汗が、持っていた出席簿を滑らせた。
固い床に落ちて、かなりの音を出す。
周りの視線が痛い。いつかもこんなことがあった気がする。
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