ミルクティーの音色
そうだ、あの日だ。
佐々木さんと屋上で初めて会った、あの日。


帰り際。男子生徒にぶつかられた拍子に佐々木さんは教科書を落とし、それをしゃがんで拾っていた。
縮こまった背中から、どうしようもないほどの悲しみのオーラが出ていた気がして。


どうにもいたたまれなくなって、俺は佐々木さんの隣に並んだ。
佐々木さんを助けてあげたかった。


あの時の佐々木さんには、助けてくれる存在がいた。俺という存在が。


でも今の俺には、その存在は見当たらない。
佐々木さん。そう呟いても、隣には誰もいない。


擦り減り、汚れ、傷のついた床を見続けて、ようやく理解した。
俺はきっと、ひとりになりたくなかっただけなんだと。
お互いに寄りかかれるような人を、探していたんだろうと。


あの時出会った佐々木さんは、俺と同じような()をしていたんだと思う。
ところどころ破れたように光がなくて、なにかを映しても、光が灯ることはないような、そんな瞳を。
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