太陽みたいなキミだから
◇
――じゃあ早速だけど、昼休みに資料を取りに職員室に来てくれるかな。
先生に言われるがまま、憂鬱な足取りで職員室に来た。
本当ならこの時間は塾の予習をしたかったのに、貴重な昼休みを無駄にすることになった。
「失礼します」
ドアを開けてすぐ、充満するコーヒーの匂いが鼻につく。規則的に鳴るコピー機の音に、数人の先生の話し声が重なる。
職員室に呼び寄せたくせに、先生は留守にしているみたいだった。机の上に何枚かのプリントと、『杉咲さん、よろしくね』のファンシーなメモが貼ってあった。
ため息混じりにそれを手にした、その時。
「――本当にそこでいいのか? 樋口ならもっと上の高校だって狙えるぞ。親御さんだって反対しているだろう?」
そんな声が聞こえてきた。
ああ、誰かが志望校で揉めてるんだな。進路調査書を出したあと、職員室がそんな話し合いで溢れかえるのは毎年恒例だった。
「S高」で出さなかったら、今ごろ先生に捕まっているのはわたしだったかもしれない。
わたしだったら……なんて答えるだろう。もし、お母さんの意見を聞かないで「Y高美術科」を書くことができたら――。
……なんて。
そんな「もしも」はありえないのに。
自嘲気味に笑みを浮かべて職員室のドアに手をかけた。だけど――。
「いいんです、わたし、この学校に行きたいので」
一歩廊下に踏み出したところで、思わず足を止めた。
それは、迷いのない凛とした声。
自分が言ったわけではないのに、ドキドキと胸が高鳴る。一体どんな子が言ったんだろう……。
興味本位で、ドアを閉めるほんの一瞬、チラリと声のする方を覗いてみた。
黒髪のショートボブに真っ赤なメガネ。横顔しかわからなかったけど、あれはたしか……隣のクラスの子だ。
――じゃあ早速だけど、昼休みに資料を取りに職員室に来てくれるかな。
先生に言われるがまま、憂鬱な足取りで職員室に来た。
本当ならこの時間は塾の予習をしたかったのに、貴重な昼休みを無駄にすることになった。
「失礼します」
ドアを開けてすぐ、充満するコーヒーの匂いが鼻につく。規則的に鳴るコピー機の音に、数人の先生の話し声が重なる。
職員室に呼び寄せたくせに、先生は留守にしているみたいだった。机の上に何枚かのプリントと、『杉咲さん、よろしくね』のファンシーなメモが貼ってあった。
ため息混じりにそれを手にした、その時。
「――本当にそこでいいのか? 樋口ならもっと上の高校だって狙えるぞ。親御さんだって反対しているだろう?」
そんな声が聞こえてきた。
ああ、誰かが志望校で揉めてるんだな。進路調査書を出したあと、職員室がそんな話し合いで溢れかえるのは毎年恒例だった。
「S高」で出さなかったら、今ごろ先生に捕まっているのはわたしだったかもしれない。
わたしだったら……なんて答えるだろう。もし、お母さんの意見を聞かないで「Y高美術科」を書くことができたら――。
……なんて。
そんな「もしも」はありえないのに。
自嘲気味に笑みを浮かべて職員室のドアに手をかけた。だけど――。
「いいんです、わたし、この学校に行きたいので」
一歩廊下に踏み出したところで、思わず足を止めた。
それは、迷いのない凛とした声。
自分が言ったわけではないのに、ドキドキと胸が高鳴る。一体どんな子が言ったんだろう……。
興味本位で、ドアを閉めるほんの一瞬、チラリと声のする方を覗いてみた。
黒髪のショートボブに真っ赤なメガネ。横顔しかわからなかったけど、あれはたしか……隣のクラスの子だ。