太陽みたいなキミだから



 ――じゃあ早速だけど、昼休みに資料を取りに職員室に来てくれるかな。

 先生に言われるがまま、憂鬱な足取りで職員室に来た。
 本当ならこの時間は塾の予習をしたかったのに、貴重な昼休みを無駄にすることになった。

「失礼します」

 ドアを開けてすぐ、充満するコーヒーの匂いが鼻につく。規則的に鳴るコピー機の音に、数人の先生の話し声が重なる。
 職員室に呼び寄せたくせに、先生(当の本人)は留守にしているみたいだった。机の上に何枚かのプリントと、『杉咲さん、よろしくね』のファンシーなメモが貼ってあった。
 ため息混じりにそれを手にした、その時。

「――本当にそこでいいのか? 樋口ならもっと上の高校だって狙えるぞ。親御さんだって反対しているだろう?」

 そんな声が聞こえてきた。
 ああ、誰かが志望校で揉めてるんだな。進路調査書を出したあと、職員室がそんな話し合いで溢れかえるのは毎年恒例だった。
 「S高」で出さなかったら、今ごろ先生に捕まっているのはわたしだったかもしれない。
 わたしだったら……なんて答えるだろう。もし、お母さんの意見を聞かないで「Y高美術科」を書くことができたら――。

 ……なんて。
 そんな「もしも」はありえないのに。
 自嘲気味に笑みを浮かべて職員室のドアに手をかけた。だけど――。

「いいんです、わたし、この学校に行きたいので」

 一歩廊下に踏み出したところで、思わず足を止めた。
 それは、迷いのない凛とした声。
 自分が言ったわけではないのに、ドキドキと胸が高鳴る。一体どんな子が言ったんだろう……。
 興味本位で、ドアを閉めるほんの一瞬、チラリと声のする方を覗いてみた。
 黒髪のショートボブに真っ赤なメガネ。横顔しかわからなかったけど、あれはたしか……隣のクラスの子だ。
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