太陽みたいなキミだから
 階段室のドアを開けると……――いた。
 真正面、フェンスにもたれるようにしてこちらに背中を向けている、オレンジ頭。
 近づくわたしの気配に気づかないのか、彼はずっと遠く――グラウンドで練習をしているサッカー部を眺めている。
 そのまま真横に来て顔を覗き見ると、その横顔にドキッとした。昨日の笑顔とは打って変わって、どこか寂しそうだから。
 そんな顔もするんだ……ちょっと意外。

「あ、芽衣!」

 ようやくわたしに気付いたらしい。わたしと目が合ったとたん彼の顔がパッと華やいだ。

「オレの絵を描いてくれる気になった?」

 ……ああ、やっぱり来るんじゃなかった。昨日のたった一言に心ほだされたわたしがバカだったんだ。
 もう絵は描かないと断ったはずなのに。

「描きません。だいたい私、人物画は描かないので」

 よく知らない人だから? 
 こういうとき、いつもなら押しに負けて引き受けてしまうのに、驚くほどすんなりと「NO」の言葉が出てきた。

「ふゥん? 残念だなー」

 そう言いながら、エージ先輩はふんわり笑ってみせる。
 その言葉とは裏腹にちっとも残念そうに見えない。やっぱり変な人だ。
 またグラウンドの方に向き直った先輩を見て、そう思った。

「…………」

 風がそよぐ。一筋の飛行機雲が残る空に、小さな鳥が羽ばたいている。
 この広い屋上にいるのは、わたしとエージ先輩の、二人だけ。
 沈黙が永遠に感じる。なにか話してくれればいいのに。「また来て」って言ったわりに、なにも話してくれないんだ。
 どうしよう。屋上に来てみたものの、わたしはこの人に特に用事なんてない。だいたい、なにを期待してここに来たんだっけ……。


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