太陽みたいなキミだから
 なにを言うのかと思えば……ありえない。
 でもこれでハッキリした。この人はわたしのことをからかっているんだ。
 
「もういいです。さようなら」

 ちょうど五時のチャイムが鳴ったところだった。塾の時間だし、これで本当にここにいる理由はなくなった。
 くるりと踵を返し、階段室のドアを開ける。背中から「待ってよ、芽衣」と焦ったような声が聞こえてきた。

 ちょっとキツく言いすぎちゃったかな。
 ほんのり芽生えた同情心が、わたしを振り向かせる。

「また来てね」

「……!」

 だけど、エージ先輩はわたしに言われたことなんて微塵も気にしていないのか、やっぱり満面の笑顔で手を振っていた。その爽やかさが余計に腹立たしい。
 ……変な人!
 思っていた通り、関わったところでろくなことなかった。はぐらかされて、からかわれて。

 だけど――。

 階段を一段下りる。トンッという靴音が意外なほど軽やかで、自分でも驚いた。

 エージ先輩は変な人……だけど、『嫌な人』ではない気がする。
 一緒にいても息がつまらないし、耳もふさぎたくなることはない。どちらかというと……そう、心地いいいんだ。
 わたしの中のどろどろとした嫌なものが、先輩といるときれい(・・・)になる気がする。
 それに、なぜかわからないけど、先輩の前だといい子にならないですむんだ。
 そんなことを思うのは初めてだった。

「エージ、先輩……」

 その名を呟けば、たちまちスッと心が軽くなる。
 不思議な空気をまとったエージ先輩に、きっとわたしはまた会いに来る……そんな予感がした。
 
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