太陽みたいなキミだから
 絵を捨てる……そう決めたんだから、もっと頑張らなきゃいけないのに。
 どうやっても「ふつう」のわたしには届かない世界がある。
 でも、お兄ちゃんみたいにならないと、お母さんに失望されてしまう。今よりもっと必要とされなくなってしまう。
 見て……もらえなくなる。
 頑張らないと……――。

「プリント」

「……えっ?」

 間近で声がして、意識が引き戻された。前の席に座っている子が振り返り、わたしに話しかけていたのだ。
 あれ、この子……。黒髪のショートボブに真っ赤なメガネ。先日職員室で会った子だ。わたしと同じ、文化祭実行委員だったんだ。
 彼女は口を真一文字に結んでにこりともしない。
 愛想がない子、なんだなぁ。

「二年生の各クラスのプリント、私が集めることになってるんだけど」

 そう言って、手にしていた他のクラスのプリントをずいっとこちらに突き出した。
 プリント? そういえば……クラスでなんの催し物をするか、話し合ってプリントにまとめるんだったっけ。
 だけど、頼りない先生に、わたしに任せっぱなしのクラスメイトたち……。そのせいでうちのクラスはまだなにも決まっていなかった。

「ご、ごめん。もうちょっと待って。まだ決まってなくて」

「もうちょっとって、いつなの?」

「あ……明日には渡せると思うから――」

 そう言いながら、わたしの意識は彼女の机の上にいっていた。
 赤と黒の毒々しいドット柄のペンケース。そこにでかでかと『樋口』と名前が書いてある。
 樋口さん、っていうのか。
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