太陽みたいなキミだから

4. 心地いいとき

 ノートにびっしりと数式が並ぶ。その暗号のような文字を見ているうちに、目眩がしてきた。
 これ、なんだっけ。どうしよう、さっぱりわからない。
 パラパラと参考書をめくって見返してみても、それらしい記述がない。習った覚えもない。
 この宿題が終わらないと、明日の塾の授業に間に合わないのに。
 焦っても仕方ないのはわかっている。だけど……。

 ――さっすが学年一位サマは違うねー。

 美優の言葉を思い出す。

 ……学年一位、か。
 『学年一位』が聞いてあきれる。
 わたしはノートの端をぐしゃっと握りしめた。

 怒られないように、見捨てられないように。お兄ちゃんに追いつきたいと必死に勉強してきた結果が『学年一位』だっただけ。
 それをすごいと言う人もいるけれど、わたしからしたら、家でなにも勉強しないのに毎回テストで百点をとってくるお兄ちゃんの方が、よっぽどすごかった。
 それに『学年一位』になったところで、お母さんがわたしをほめてくれることはなかった。
 
 あの時だって、そう。
 去年の今ごろ、美術部で出した絵画コンクール。
 わたしの作品は『優秀賞』をとったのに、お母さんは「そうなの」と言ったきり、わたしの絵を見ることもほめてくれることもなかった。
 『大賞』しか興味がないんだと思う。
 コンクールに出したのは大きなひまわりの絵で、わたしはそれを気に入っていた。
 だからこそ、母にほめてほしかった。なんでもいいんだ、「よかったよ」のひと言でいいから……欲しかったんだ。
 病院にひっそりと飾られたその絵の存在を知っている人は、きっと誰もいない。

 わかっていることだけど、それでも期待してしまう自分がいる。
 いつか、ほめてほしい。いつか、いつか。わたしのことを見てほしい。
 そんな気持ちで、無駄な努力をしてしまう。自分をいつわってしまう。
 泣きそうになって、きゅ、と唇をかんだ。
 泣いてる時間なんてない。泣くくらいなら、一つでも多く百点を出さなければ。
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