太陽みたいなキミだから
 実行委員もないし塾もない今日は、予習をするために早く帰るはずだった。
 だけど、なんでもない、エージ先輩とただ過ごすこの時間が名残惜しくて、「あと少し」と思いながらも帰れずにいる。

 相変わらずサッカーの応援に夢中な先輩を盗み見た。
 あーあ、楽しそうな顔しちゃって。

 わたしに興味がある、と言ったわりに、エージ先輩からはなにも聞いてこない。
 「なにか悩んでるの?」「うまくいってないの?」「今日はなにがあったの?」
 となりで憂鬱そうに佇んでいるわたしがいても、そういった類のことすら聞いてこない。

 その代わり、自分のことも語らない。
 紗枝や美優はいつも自分の話ばかりするから、きっとみんなそうなんだと思っていたけど、エージ先輩はちがうみたいだ。

 だから本当に、ただなにもないゆったりとした時間が過ぎる。
 風が吹き、雲が流れ、水色だった空が次第に赤く染まり、濃い紺色になるのを二人で眺める。
 なんにもない。だけど心地いい時間。
 こんな時間の使い方をするのは久しぶりだし、それを誰かと共有するのははじめてだった。

「……ふぁ」

 あまりにもゆったりしているからか、思わずあくびがこぼれた。
 そんなわたしの姿をエージ先輩は見逃さない。さっきまでサッカー部しか眼中になかったくせに、目ざといんだ。

「眠そうだね」

 クスクス笑いながら、おもちゃを見つけた子供みたいに楽しそう。
 そんな反応も前ほど嫌じゃない。

「……ちょっと……塾の勉強についていけてなくて夜勉強しているんです」
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