太陽みたいなキミだから
 いきなりの言葉に、わたしは持っていた鞄を落としそうになった。
 いま、なんて言った?
 デートって聞こえたような気がする。

 でもそんなまさか。
 わたしにデートのお誘いをするってだけでも怪しいのに、さっき夜遅くまで勉強している話をしたばかりなのだ。
 これはそう、聞き間違い。スルーしてやり過ごそう。

「ね、芽衣。デートしようってば」

 だけど無視を決め込むわたしの顔をエージ先輩が覗き込んできた。
 返事を期待するかのように目がらんらんと輝いている。

 聞き間違い、じゃなかったんだ。
 ハッキリと聞こえてきた「デート」の単語に心臓がガショガショ変な音をたてる。

「な、な、な、なんでそんな!」

 体が火照って熱い。顔だって絶対赤い。
 わたしのことからかうにしても、もっとちがうことにしてほしいのに。よりにもよって「デート」って、たちが悪すぎる。

「芽衣はこん詰めすぎ! たまには息抜きしなきゃ。それに難しいって言っても二年の範囲でしょ? 勉強のことが心配なら、オレが教えるから」

 ね? と言って、優しく微笑むから、なんだかやっぱりほだされそうになる。
 そんな目で見てくるのはずるい。

「せ、先輩が教えてくれるの……?」

「うん! こう見えてオレ、めちゃくちゃ頭いいよ」

 ……そのセリフ、すごく胡散臭い。
 でももし仮にエージ先輩が教えてくれるとしたら……これほど心強いことはない。塾の先生にも聞きづらい今、頼れる人が見当たらないから。

 わたしが黙っていると、エージ先輩はにんまり笑った。

「じゃ、決まりね」

「え? え?」

「今度の土曜、二時に駅前ね!」

 まだ行くって言ってないのに。
 だけど目の前の嬉しそうなエージ先輩を見ていたら、「ムリです」なんて答えは言えそうになかった。



 
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