太陽みたいなキミだから


 それにしてもエージ先輩はなにを考えているんだろう。デートだなんて。
 慣れない甘い響きに階段を下りる足がこわばる。途中、右手と右足が同時に出ていることに気付き頬がカッと熱くなった。
 わたしなんかと外で会ってもなにも楽しいことなんかないのに。
 エージ先輩は調子いいから、きっと気まぐれで言っているだけ。わたしの反応を見て楽しんでいるんだ。
 エージ先輩はそういうこと(・・・・・・)に慣れていそうだし、勉強と絵ばかりで男の子に慣れていないわたしが面白いのかもしれない。
 そうきっと、ただの暇つぶし――。
 
 最後の一段を下りた瞬間、「杉咲」と声をかけられた。
 完全に油断していたわたしは、大きく体をのけ反らせる。

「ははっ! そんなに驚かなくても」

 下の階の階段から顔を覗かせた人を見てギクッとした。
 それは最近まで毎日のように顔を合わせていた人物だからだ。

「――片桐ぶ……先輩」

 片桐涼(かたぎりりょう)先輩。美術部の部長だ。なるべく今、会いたくない人だった。

「なんで。『部長』でいいのに」

「そんなわけには……」

 部長は一段飛ばしで階段を駆け上がり、あっという間にわたしの隣にやって来た。
 身長百八十センチ近い部長が隣に来ると、圧迫感がすさまじい。
 ぬっと立ってわたしを下ろすもんだから、部活を辞めた身としては気まずくて目を逸らしてしまう。
 わざわざ見つけて声をかけてくるということは……あまりいい予感はしない。

「さっき、屋上に杉咲らしき人が見えたからもしやと思ったら……。やっぱり杉咲だった」

「え?」

「オレ、今サッカー部の助っ人に入ってるんだ」

 その言葉通り、たしかに部長は以前見た時よりかなり日焼けしている。
 美術部の部長……だけど、その中学生らしからぬ恵まれた長身とバツグンの運動神経で、いつもいろんな部活に引っ張りだこなんだ。
 今回はサッカー部というわけか。


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